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安部 晋一郎
日本原子力学会誌ATOMO, 65(5), p.326 - 330, 2023/05
電子機器の信頼性問題として、地上に降り注ぐ二次宇宙線の中性子やミューオンによって生じる電子機器の一時的な誤動作(ソフトエラー)がある。高い信頼性が求められる電子機器の数は社会の進歩とともに増えており、これらすべての機器のソフトエラー発生率(SER: Soft Error Rate)を実測的な方法で評価することは難しい。また機器の製造前の段階でSERを評価することも求められており、シミュレーションによるSER評価の重要性が高まっている。原子力学会誌の解説記事において、放射線挙動解析コードPHITSを用いたソフトエラーシミュレーション技術の研究開発や、ソフトエラー発生の物理過程の詳細解析結果について紹介する。
Liao, W.*; 伊東 功次郎*; 安部 晋一郎; 密山 幸男*; 橋本 昌宜*
IEEE Transactions on Nuclear Science, 68(6), p.1228 - 1234, 2021/06
被引用回数:2 パーセンタイル:30.55(Engineering, Electrical & Electronic)二次宇宙線中性子が引き起こすメモリ情報の反転現象であるシングルイベントアップセット(SEUs: Single Event Upsets)は、地上における電子機器の誤動作現象の原因となる。特に、複数メモリセル反転(MCUs: Multiple Cell Upsets)は、エラーの訂正が困難であるため、深刻な問題となる可能性もある。本研究では、10MeV以下の低エネルギー中性子の影響を明らかにすることを目的とし、産業技術総合研究所にて半導体デバイス設計ルール65nmのBulk SRAMへ異なるエネルギーの単色中性子を照射し、SEU断面積およびMCU断面積を測定した。その結果、6MeV前後でSEU断面積が大きく変化することや、数MeVの中性子でも全体に占めるMCUの割合は大きく変わらないことなどを明らかにした。また、SEU断面積およびMCU断面積と、ニューヨークと東京の二次宇宙線中性子スペクトルを用いてソフトエラー率を解析した結果、地上環境では低エネルギー中性子の影響はそれほどない事なども判った。
Liao, W.*; 橋本 昌宜*; 真鍋 征也*; 渡辺 幸信*; 安部 晋一郎; 反保 元伸*; 竹下 聡史*; 三宅 康博*
IEEE Transactions on Nuclear Science, 67(7), p.1566 - 1572, 2020/07
被引用回数:0 パーセンタイル:0.01(Engineering, Electrical & Electronic)ミューオン起因シングルイベントアップセット(SEU: Single Event Upset)は、デバイスの微細化に伴い増加することが予想されている。環境ミューオンがデバイスに入射する角度は常に垂直とは限らないため、ミューオンの入射角がSEUに及ぼす影響を評価する必要がある。そこで本研究では、バルクSRAMおよびFDSOI SRAMに対して、0度(垂直)と45度(傾斜)の2つの入射角で負ミューオン照射試験を実施した。その結果、傾斜入射では、SEU断面積がピークとなるミューオンエネルギーが高エネルギー側にシフトすることを明らかにした。一方で、SEU断面積の電圧依存性や複数セル反転のパターンなどは、垂直入射と傾斜入射では同様であることも明らかにした。
Liao, W.*; 橋本 昌宜*; 真鍋 征也*; 安部 晋一郎; 渡辺 幸信*
IEEE Transactions on Nuclear Science, 66(7), p.1390 - 1397, 2019/07
被引用回数:13 パーセンタイル:81.94(Engineering, Electrical & Electronic)SRAMにおける複数メモリセル反転(MCU: Multiple-cell Upset)は、誤り訂正符号では対処できないため、電子機器への放射線影響として大きな問題となる。環境中性子線起因MCUについては特性評価が行われている。一方、負ミューオン起因MCUに関しては最近報告がされるようになってきた。中性子起因MCUと負ミューオン起因MCUは、ともに二次イオンによって生じるため、ある程度類似性があると予想される。そこで本研究では、65nmバルクSRAMへの、連続エネルギー中性子、準単色中性子および単色負ミューオン照射ソフトエラー測定実験を行い、負ミューオン起因MCUと中性子起因MCUの測定結果の比較を行った。その結果、MCUイベント断面積の動作電圧依存性はほぼ同じであることを明らかにした。またモンテカルロシミュレーションを行った結果、実験結果と合致する結果が得られた。
Liao, W.*; 橋本 昌宜*; 真鍋 征也*; 渡辺 幸信*; 安部 晋一郎; 中野 敬太*; 佐藤 光流*; 金 政浩*; 濱田 幸司*; 反保 元伸*; et al.
IEEE Transactions on Nuclear Science, 65(8), p.1734 - 1741, 2018/08
被引用回数:15 パーセンタイル:81.29(Engineering, Electrical & Electronic)設計ルールの微細化に伴い半導体デバイスのソフトエラーへの感受性が高まっており、二次宇宙線ミューオンに起因するソフトエラーが懸念されている。本研究では、ミューオン起因ソフトエラーの発生メカニズムの調査を目的とし、J-PARCにて半導体デバイス設計ルール65nmのBulk CMOS SRAMへミューオンを照射し、ソフトエラー発生率(SER: Soft Error Rate)を測定した。その結果、正ミューオンによるSERは供給電圧の低下に伴い増加する一方で、負ミューオンによるSERは0.5V以上の供給電圧において増加した。また、負ミューオンによるSERは正のボディバイアスを印加すると増加した。更に、1.2Vの供給電圧において、負ミューオンは20bitを超える複数セル反転(MCU: Multiple Cell Upset)を引き起こし、MCU率は66%に上った。これらの傾向は、負ミューオンによるSERに対し、寄生バイポーラ効果(PBA: Parasitic Bipolar Action)が寄与している可能性が高いことを示している。続いて、PHITSを用いて実験の解析を行った結果、負ミューオンは正ミューオンと比べて多量の電荷を付与できることがわかった。このような付与電荷量の多いイベントはPBAを引き起こす原因となる。
安部 晋一郎; 佐藤 達彦
Journal of Nuclear Science and Technology, 53(3), p.451 - 458, 2016/03
被引用回数:10 パーセンタイル:64.39(Nuclear Science & Technology)地上における電子機器の信頼性を脅かす問題として、二次宇宙線中性子によるソフトエラーが知られている。既に開発済のマルチスケールモンテカルロシミュレーション手法PHYSERDは信頼性の高いソフトエラー解析コードで電荷収集過程を詳細に解析できるが、テクノロジーCAD(TCAD)シミュレーションに長時間を要する。そこで本研究では、収集電荷量の概算に多重有感領域(MSV: Multiple Sensitive Volume)モデルを採用し、PHITSとMVSモデルを用いた二次宇宙線中性子起因ソフトエラー発生率(SER: Soft Error Rate)計算を行った。この計算結果をPHYSERDおよび単純有感領域(SSV: Single Sensitive Volume)モデルによる結果と比較した。その結果、PHITSとMSVモデルを用いることで、PHYSERDによるSER計算値と同等の値を短時間で算出できることがわかった。また、PHITSとMSVモデルを用いて電荷収集効率の位置依存性を考慮することで、PHITSとSSVモデルよりもSERや電荷収集をより正確に再現できることを定量的に明らかにした。
阿部 哲男*; 大西 一功*; 高橋 芳浩*; 平尾 敏雄
Proceedings of the 6th International Workshop on Radiation Effects on Semiconductor Devices for Space Application (RASEDA-6), p.157 - 160, 2004/10
シングルイベントアップセット(SEU)耐性をレーザ試験により簡便に評価することは、進展が早く多種である民生デバイスの耐性評価にとって有用である。本報告では、メモリ素子であるSRAMに対する重イオン照射試験を実施し、照射粒子数が比較的少ない条件でSEU反転断面積を求める方法を検討するとともに、その試験結果とレーザ試験との相関を得た。
森 英喜; 平尾 敏雄; Laird, J. S.; 小野田 忍; 伊藤 久義
JAERI-Review 2002-035, TIARA Annual Report 2001, p.14 - 16, 2002/11
高集積メモリデバイスへのイオン1個の入射により時多数のメモリ情報が同時に反転するマルチプルビットアップセットの発生機構解明を目的として、イオンの入射角度が誘起電荷の伝搬に及ぼす影響を調べた。試験試料として、不純物濃度が51015cmのn型シリコン基板上に接合面積が100m2mの金電極を4mの間隔で3本配置したショットキーダイオードを作製した。試料への照射は18MeVの酸素イオンを使用した。各電極での誘起電荷の測定はTIBIC(Transient Ion Beam Induced Current)システムを使用し、イオン入射角度は0°(垂直入射)から45°,印加電圧は0Vから5Vの範囲で変化させた。この結果、イオンが入射した時に発生するシングルイベント過渡電流波形のピーク値は入射角度の増加に伴い高くなること,電荷収集量は入射角度の逆余弦に比例することがわかった。また、発表会ではイオン照射位置を変えた時の各電極での過渡電流波形の変化についても報告する。
槇原 亜紀子*; 新藤 浩之*; 根本 規生*; 久保山 智司*; 松田 純夫*; 大島 武; 平尾 敏雄; 伊藤 久義; Buchner, S.*; Campbell, A. B.*
Proceedings of 4th International Workshop on Radiation Effects on Semiconductor Devices for Space Application, p.103 - 107, 2000/00
半導体デバイスに高エネルギーを持った荷電粒子が入射すると、シングルイベント現象を引き起こすことはよく知られている。本会議では、16Mbit及び64MbitDRAMを用いてマルチビットアップセットの実験結果と解析結果について述べる。試験は、重イオンを試料に対して入射角度を変化させ、その時に発生したエラーマッピングからマルチビットアップセット(MBU)を計測した。その結果、報告内容としては、DRAMにより発生する充電型及び放電型MBUにはそれぞけ独立したエラーの発生するメカニズムが存在することが判明したこと、さらに今後のDRAMではリフレッシュサイクル時間が短くなるため、MBUとして充電型のエラー発生回数が多くなると考えられる。したがってこれらメカニズムの解明が重要であることなどを紹介し、議論を行う。
根本 規生*; 新藤 浩之*; 松崎 一浩*; 久保山 智司*; 大島 武; 伊藤 久義; 梨山 勇; 松田 純夫*
Proceedings of 3rd International Workshop on Radiation Effects on Semiconductor Devices for Space Application, p.154 - 159, 1998/00
地上用1MビットSRAM,4MビットSRAM,16MビットDRAM及び64MビットDRAMのシングルイベントアップセット試験をカクテルビームを用いて行った。カクテルビームは4.0~60.6MeV/mg/cmのLETでの照射が可能であり、今回はこのビームを用いて、しきい値LETと飽和反転断面積を見積もった。その結果、これらの集積回路は作製プロセスによってSEUしきい値と反転断面積が大きく異なることが明らかになった。
神谷 富裕; 宇都宮 伸宏*; 峰原 英介; 田中 隆一; 大村 三好*; 河野 和弘*; 岩本 英司*
Proceedings of the International Conference on Evolution in Beam Applications, p.286 - 291, 1992/05
重イオンマイクロビーム装置が開発され、3MVタンデム加速器のビームライン上に設置された。主な用途は、宇宙船で使用される半導体素子のシングルイベントアップセットの基本的な機構を解明するためである。1m以内の位置精度で狙った位置にイオンを1個1個ヒットさせるべく本装置は設計された。本装置は2つの光学系によって構成されており、1つが前段レンズ系で、ターゲット電流を100pAから0.1pA以下まで極めて広いレンジで制御するためのものであり、もう一つが、1mのビームスポット径を得るための精密レンズ系である。現在Ni15MeVのビームを用いたテスト実験が開始された。ここでは、本装置の概要と、現在までに得られた実験結果について報告する。
安部 晋一郎; 佐藤 達彦; 小川 達彦
no journal, ,
本研究では、PHITSに搭載されたイベントジェネレータモードの改良が、中性子による半導体SEU評価に及ぼす影響を解析した。半導体デバイスに対する放射線影響の1つとして、1つの粒子によって生じるシングルイベント効果がある。デバイスに入射した放射線がノイズ電荷を誘起し、これにより保持データが反転(シングルイベントアップセット, SEU)し、電子機器に一時的な不具合(ソフトエラー)が発生する。地上におけるSEUの主因となる中性子は、核反応を介してデバイスに電荷を付与するため、中性子によるSEUの発生率をシミュレーションで評価する際には核反応モデルの精度が重要となる。核反応モデルの精度検証の結果、イベントジェネレータモードの改良版となるe-mode ver. 2では二次イオンの生成断面積がJENDL-4.0と一致しており、従来版のe-mode ver. 1からの改善が確認された。続いてe-mode ver. 1とver. 2を用いて算出したSEU断面積を比較した結果、両者に有意な差が生じることが判明した。この結果より、e-modeの改良がSEU解析へ及ぼす影響を定量的に明らかにした。